菅野貫首写真

業病を滅せんと欲して 懴悔すべし(太田入道殿御返事)

 今月ご紹介の聖語は、文永八年(1271)千葉県在住の太田入道殿にお与えになられたご教示であります。お手紙によりますと、太田入道殿が病気に罹り不調であるという事を知り、そのお見舞のお手紙が本書であります。内容をご説明申し上げる前に、本書に対する一つのエピソードをお伝えします。本書は当初、宗門の本山に格護されておりましたが現在は各地のご寺院に断片が格護されているだけであります。そのわけは、
「本書が一行とか、四字、五字の短片が散在しているのは、他の御書にも見られるように『お守り』『護符』として本書所持の、おそらくは本山より分与されたものであろう」(日蓮聖人御遺文辞典)
日蓮聖人のご真蹟が「お守り」「護符」として、各個人が所持、礼拝されてきた事は多々伝えられており、わけても本書が「病気平癒」のご文章でありましたので日蓮聖人御遺文辞典が示す通り、「護符」として全文が「受与」されたのだと拝します。本書は人々からそれほど求められ、たよりにされていたご文章であったということであります。
 では、本文に入ります。太田入道殿が病気になられたと聴き、日蓮聖人は
「天台大師の教えをもとに病気には六つの原因がある。一は、地水火風の四大の不順(天災)によるもの。二は、飲食の不注意、不節制によるもの。三は、体の不健全(無理な行動)によるもの。四は、悪鬼によるもの。五は、天魔が悩ますもの。そして六は、前世から持ってきた〝業〟によるものである。この六つの病の中でも第六の〝業〟は全ての病の根源であり、この〝業〟を治する事は全ての病を治することなのである。〝業〟それはたとえ親子兄弟姉妹という血の繋がりがあっても〝業〟だけは一人一人別なのである。」
 そしてご紹介の聖語「自分が過去世から持って生れてきた善悪を含めて生きる力、それが〝業〟であり病の根源なのである。もし病を治したいのであれば、自分の〝業〟に気づき反省し、そしてお題目を唱えなさい。お題目は他の五つの病も含めて完治させる偉大な力を持っている。自らの〝業〟に思いをいたし、ひたすらお題目をお唱えしなさい。貴殿の病気は必ず完治するであろう」とお説きになられるのであります。
 このみ教えには大切な事が含まれております。〝業〟と言うと一種の宿業と受け止めがちですが、日蓮聖人がお題目による〝完治〟をお説きになられましたのは、「業とは本来は未来に向かっての人間の努力を強調したものである」(佛教辞典)と云う根本精神をふまえて法華経如説修行による完治をお説きになられたのであります。私達は自らの〝業〟に思いを至しつつ、佛道修行に精進いたしたいものであります。


合掌

日彰