菅野貫首写真

仏と申せし人は いみじき(優れた)くすし(医師)也(妙心尼御前御返事)

 弘安元年(1278)8月16日、身延山の日蓮大聖人より駿河国(静岡県)在住の女性檀越のお一人、妙心尼にお与えになられたお手紙の一節が今月ご紹介の聖語であります。ちなみに、妙心尼は夫の入道殿の病気が重く、余命幾許もない事を悟り尼となられたと伝えられ、御文章でも「かみをそり、そでをすみにそめぬ――墨染の衣をつけている女人」とお述べになられておられます。この事を念頭に今月の聖語を拝していただきたく存じます。
 お手紙の最初でなすびやその他ご供養の品々への御礼を申しのべられた後に、夫入道殿が重い病気になられていることにふれ、
『法華経、お題目をお説きになられたお釈迦さまは優れたお医者様であられる。そのお医者様が調合したお薬、それが南無妙法蓮華経のお題目なのである。苦しい処、痛い処に手を当てお題目をお唱えなさい。必ず安らぎをお与え下さるであろう』
『万が一、お亡くなりになられた時、霊山で〝日蓮が弟子〟と名のらせ給え。 如何なる悪鬼等も近寄ることは出来ず、まっすぐにみ佛、教主釈尊にお目にかかれる事疑いないことである』
とお説きになられます。
いつものように私の領解(理解)で申し述べさせて頂きます。お釈迦さまはお医者様である、しかも大変優れた方である。それは内科医であり、外科医であり、精神科医、その他ありとあらゆる病を治して下さる方である。そのお医者様が調合して下さった薬、それが南無妙法蓮華経のお題目なのである。痛い時、苦しい時その処に手を当ててお唱えするがよい。必ず治して下さるであろう。
しかし人には持って生まれた寿命というものがある。その寿命が尽きれば、その時も南無妙法蓮華経とお唱えし、閻魔様の前で〝自分は日蓮聖人の弟子です〟と言上しなさい。諸々の悪鬼はそばによる事が出来ず、まっすぐに教主釈迦牟尼世尊のもとにお参り(成仏)することが出来るであろう。
 今月の聖語で日蓮聖人は二つの大事なことをご教示下さっておられます。一つは毎日の生活上の事、一つは死後の事であります。『是好良薬 今留在此――この良き良薬を今ここに止めておく』法華経壽量品のご教示であり「良薬――良き薬」は南無妙法蓮華経であるとご教示下さっております。
ある先輩上人のお言葉「自分は頭のテッペンから足の先まで病気があり、朝昼夜、寝る前とたくさんの薬のお世話になっている。その薬を飲む時の一粒一粒にお題目をお唱えしていただいている。おかげで病歴五十年年齢九十歳になった」と。まさに是好良薬であります。
 もう一つ、今生でのお題目の薬効は死後まで効き、その安らぎは生前お題目とご縁のなかった人にも安らぎを与えられるそれほどの「良薬」であります。大事に大切に拝受いたしたく念じております。


合掌

日彰