菅野貫首写真

閻浮の内の人 病の身なり 法華経の薬あり(高橋入道御返事)

 今月ご紹介の聖語は、建治元年(1275)7月12日今の静岡県富士郡加島に住しておられた高橋六郎入道にお与えになられたお手紙の一節であります。高橋入道は北条家の家人でしたが入道して加島に居を構えられた方で、日蓮聖人鎌倉在住の頃からのご信者であります。それともう一つ、入道の夫人持妙尼は六老僧のお一人富士日興上人の叔母(ご両親の妹御)にあたられ、日興上人の教化も受けておられたご夫妻でありました。又学問的素養もおありだったと伝えられ今月ご紹介の御妙判も法華経の立場についてお述べになっておられ、教学的理解がなければ通じない程の御文章でありますので、その教養の深さを拝することが出来ます。お手紙の主なみ教えは、「妙法蓮華経の五字を上行菩薩に譲りたもう云々、末法に入りて上行菩薩出現して妙法蓮華経の五字を一閻浮提(いちえんぶだい)の一切の衆生にさづくべし」とお説きになられます。
妙法蓮華経と云うみ教えは、お釈迦さまご在世中の人々のためだけのみ教えではない。ご在世中の人々は直接ご教示いただけた、ご入滅後千年までの人には大乗経典に説かれている諸々のお経で十分である、しかし二千を過ぎ末法と云う時代に入ると人々の悪知識が深まり、世は悪世の唯中にあり諸経では救いがたい。その末法の人々救済のために法華経説法中わざわざ過去世にて教化された上行菩薩をはじめ四大菩薩を呼ばれ、この法華経、南無妙法蓮華経のお題目の良薬を末法の人々に授けよ、とご遺言なさったのである。私日蓮はこのお立場を厳格に守り法華経、お題目を弘めているのである。とお述べになられ、八万聖教の立場を一々示されるのであります。この内容を拝見して高橋入道殿の学問の深さを拝見する事が出来ます。
 そして今月ご紹介の聖語、
「閻浮の内の人、病の身なり。法華経の薬あり」
末法つまり令和に生きる人私達は皆病人である。その病いとは心の病いのこと。仏教では四苦八苦の心の病を説きます。生(生まれた苦悩)・老(老いる苦悩)・病(身体病の苦悩)・死(死を迎える苦悩)の四苦に、愛別離苦(あいべつりく/愛する人と離れる苦悩)、怨憎会苦(おんぞうえく/憎しみ合う人と会う苦悩)、求不得苦(ぐふとっく/求めるものが得られない苦悩)、五陰盛苦(ごおんじょうく/この世の全ての苦悩)の四苦が加わった四苦八苦の心の病と申します。我が身に当てみると納得出来ます。その病いを直す薬は只一つ南無妙法蓮華経のお題目なのである、とお説きになられます。令和に生きる私達へのご教示であります。昨今の世相は日本人がかつて経験したことのない乱世、心の病人だらけであります。ネット上の悪魔のささやきにかかったその時こそ南無妙法蓮華経のお薬をお飲みいただきたいものです。この事に限らず、諸の心の病の全て、今こそ〝病の良薬〟安らぎの世界へと治していただきたく念じております。


合掌

日彰