女人の往生成仏決定と説かるる法華経は実語なり(薬王品得意抄)
文永十二年(一二六五)日蓮聖人四十四才の時の書状であります。お与えになられましたのは、静岡県在住南條時光夫人、又は鎌倉在住大学三郎夫人と伝えられておりますがどちらかと言うことは定かではありません。しかし内容的には女性にお与えになられたことを示しており、全文は遺されておりませんが、千葉県保田妙本寺さんに七紙が格護されております。(遺文辞典)
「女の方がお釈迦さまと同じ大安心の境地に至ることが出来る。来世に於ても成佛の世界に安住することが出来る。と法華経に説かれているが、それはお釈迦さまの実語(真実の言葉)である。だから金言と申し上げるのである」
今月の聖語、私の今日訳であります。今月ご紹介のお手紙で日蓮聖人は法華経二十八章の内容を詳細にわたって解説なされたあと、「女人の成佛」は法華経で説かれていることこそがお釈迦さまの金言であるとお説きになっておられ、まさしく、女性信徒向けのお手紙であると拝することが出来るのであります。
さてそこで、私の領解を通して法華経で説かれる「女人成佛」について少しご紹介いたしますと、法華経の第十二章、提婆達多品に於て娑竭羅龍王(しゃからりゅうおう)の娘八才の龍女(りゅうにょ)が佛道修行をして「女人成佛」の姿を示されたことが説かれています。ただこの時龍女が「変成男子(へんじょうなんし)―男の姿になった」ということが形だけのこととして受け止められがちでありますが、これは「心の状態も男性と同じであった」と受け止めるべきであると私は拝しております。次は法華経の第十三章勧持品において、お釈迦さま育ての親、喬曇彌(きょうどんみ)とかつてお釈迦さまの夫人であった耶輸陀羅(やしゅたら)比丘尼(びくに)のお二人を特にお名前をあげて成佛の約束をなさいます。この時お釈迦さまは「何(なに)が故(ゆえ)ぞ、憂(うれい)のにして如来(にょらい)を視(み)る」とお二人にお声をかけられます。十三章では沢山の修行者の成佛が約束され、その中に当然お二人も入っておられたのですが「女心(おんなごころ)」で「私たちはどうなのだろうの気持ちでお釈迦さまをご覧になられた。そのことに気づかれたお釈迦さまは「みんな一緒に、と言ったその中にそなたたち二人のことも入っていたのですよ。心配ならあらためて成佛の名をさしあげますよ」とやさしくおっしゃられます。お二人は大いに安心なさいます。
私見ですが第十三章のこのくだりが私は好きです。何故なら私は一住職として全檀家、全信徒のご回向を言上しますが、母の法号こそ言上しませんが、併せて「母さん成仏してネ」の一言、亡き母への思いをめぐらすのを常としているからで、人間お釈迦さまの温かさを感じる一章であり、「女人成佛のこころここにあり」と拝する一章なのであります。今月の聖語「法華経は実語」とは単に女人成仏だけでなく男性は勿論生きとし生ける全ての成仏を説いていること申すまでもありません。