病は佛の御はからいか
病によりて道心おこり候か

入道殿御所労の事、云々。法華経に閻浮提人病之良薬とこそ、説かれて候へ。入道殿閻浮提の内日本国の人なり。しかも身に病をうけられて候云々。この病は佛の御はからいか。その故は浄名経、涅槃経には、病ある人、佛になるべきよしと説かれて候。病によりて道心おこり候か。
(妙心尼御前御返事)

 「ご主人入道殿ご病気のよし、さぞご心配のことでしょう。法華経には〝佛法の世界、娑婆世界で佛の教えを信ずる人が病気になった時、必ず良薬をとどける〟と説かれているが、入道殿は教えの中の人、日本国の人であるその人が、病気になられたのだから、この良薬を与えられ、病が治らぬはずはない。この事は浄名経の中で維摩居士が病は仏弟子の自覚を持って治ること。涅槃経ではお釈迦さまが病気でないのに病気の形をとられたことが示されている。これらのことを考えて、病気を佛縁ととらえられること、病気は法華経信仰の入り口と受けとめらるるよう、入道殿におすすめなさい」
 今月ご紹介の妙心尼と言うお方は静岡県在住の尼さん、と申しましても今日的尼さんでなくご夫婦揃って信仰生活に入られた方ということです。ですから夫は入道殿、ご夫人は尼と申されるのです。ご主人の病気、その苦しみを法華経お題目によって乗り越えなさいという励ましのお手紙であります。
  「閻浮提」とは古代印度の世界観で、我々の住む人間世界、娑婆世界のこと。「良薬」とは南無妙法蓮華経、お題目のこと。「浄名経」とは「維摩経(ゆいまきょう)」とも言い、維摩居士のために説かれたお経で、居士は在家の佛弟子ですが大乗菩薩としての行いをなされた方です。居士が病になられたのでお釈迦さまは、文殊菩薩をお見舞に向かわされ、お二人の会話が説かれているお経が「維摩経」であります。居士は〝一切の衆生病むが故に我も病む〟と説かれております。
 「涅槃経(ねはんぎょう)」はお釈迦さまのご入滅の相(すがた)を説かれたお経で〝偉大な完全な寂滅〟を示すことが主眼ですが、もう一つ〝如来常住、佛は常に在られる〟〝悉有佛性、生きとし生ける者全てに佛性がある〟という法華経の教えにつながる大事も説かれております。  一つの実例をもってご説明させていただきます。池上では毎月第四金曜日夜六時から大堂、お祖師さまの前で、〝唱題行〟を行っておりますが、ここにMさんご夫婦が参加されています。M夫人は熱心な信者さんでしたが、ご主人は仕事一筋、信仰は女房まかせが口癖でした。三年前男性特有と言われる前立腺ガンを発病、即手術。この時からご夫人と一緒にお題目をお唱えするようになられます、口癖は『貫首さん、私はガンで救われましたヨ、ガンのおかげで人生の尊さ、信仰、お題目のありがたさ、家族、夫婦のありがたさを知る事が出来ました。これからが私の本当の人生です。立派に生きますヨ』
夫婦揃って合掌唱題する後ろ姿に私は合掌しております。


合掌

日彰