親子の情愛
お正月の三ヶ日で境内が大勢の参拝者であふれていたときのことでした。
私はご祈願をお申し込みされる方々のご案内で大堂の目の前におりました。そこへ初詣の警備で境内に常駐していた警察の方がいらして、「そこの警察詰所で迷子のお子さんをお預かりしています」という連絡をいただきました。家族でお参りに訪れてお子さんがはぐれてしまうということがたまにあるのですが、警察に保護されたその男の子は黙っておとなしくしていました。
しばらくすると親御さんが現れました。迷子のお子さんは無事に親元へ帰ることができましたが、さっきまでおとなしくしていた男の子は大きな声で泣き始めました。きっと安心して緊張の糸が切れたのでしょう。若いお母さんがその子をしっかり抱きしめながら警察の方に深々と頭を下げていました。
親御さんは男の子を引き取った後、泣きじゃくる男の子を叱りつけていました。「どこへ行ってたの!」「ちゃんと一緒にいなきゃダメでしょ!」と泣き止まない男の子を叱りつけるお母さんの声が私の持ち場のテントの裏から聞こえてきました。私は〝親の不注意もあるだろうに一方的に子供ばかりを叱りつけるのは良くないな・・・〟などと思いながらテントの裏のその様子をこっそりのぞきました。すると〝親の一方的な叱りつけ〟という私の思いは飛んでいきました。お母さんは子供を叱りながらもその子をしっかり抱きしめ、目を真っ赤にしてお母さん自身も涙をあふれさせていました。どこへ行ってしまったか分からなくなってしまった我が子のことを本当に心配していて、見つかって本当によかったと思っているのだな・・・というのがよく分かりました。叱られながらもお母さんに抱かれて安心している男の子と、叱りつけながらも本当によかったと思っているお母さんの様子を見てその親子の深い情愛を感じ、私も目頭が熱くなりました。
間もなくするとお父さんを含めた親子3人は落ち着きを取り戻しその場を離れていきました。〝よかったな~〟などと私も感慨に耽っていましたがよく見るとお母さんがいた場所に携帯電話が落ちていました。所持品のこともままならないくらいに感情が揺れ動き我が子を抱きしめていたのでしょう。割と平静な印象だったお父さんにその携帯電話をお渡ししておきました。
時間にしてみればほんのわずかなものですが感動的な親子の対面となり、そばで見ていてその親子の深い情愛に感動を覚えました。