菅野貫首写真

但、法華経計(ばか)り
教主釈尊の正言なり(開目抄)

 池上抄では宗祖日蓮大聖人が三十二才立教開宗なされた時からの御文章を年代順にご紹介申し上げておりますが、今回ご紹介させていただく「開目抄」は四百余編におよぶ御文章の中でも最重要の御文、ご教示でありますので、三、四回にわたってその内容をお伝えさせていただくことにいたしました。
 文永八年(一二七一)十一月、佐渡塚原三昧堂にご配流の身となられてすぐにご撰述を開始、翌年二月に完成。折りよく訪れた大信者四条金吾殿の使者に託して「有縁の弟子」にお与えになられたのが「開目抄」であります。その目的と申しますと、聖人は、三十二才の立教開宗から五十才の佐渡ご配流まで十九年間、大難四度、小難数知れぬ迫害の連続でありました。そして何よりも「佐渡に流されると生きて帰れない」という伝えもありお弟子信者の中に少なからず動揺があり、大聖人の弘教に疑問をいだく者も出はじめ、それらの事をお考えになられてこの開目抄をおあらわしになられたものであります。ご真蹟は身延山にありましたが、明治八年の大火で焼失、しかし沢山の写本があり、原文のまま存在しております。本文六十五紙という大論文であります。この中で聖人は「法華経こそがお釈迦さまが末法の衆生救済のために遺された真実のみ教えである」「そのみ教えを弘める大任を上行菩薩に託されている」「この法華経を弘めると三障四魔(諸々の難)がおそいかかる」ということが示されているが、私日蓮はその事の全てを体現してきた。必ず諸天善神がこのことを証明して下さるであろう、今こそ法華経への信力を強めなさい、とご教示なさるのであります。そして後のことになりますが佐渡ご配流中に「観心本尊抄」をおあらわしになられ、この度の「開目抄」はそのための大前提となる大事なみ教えであります。
 「お釈迦さま五十年のご説法は数限りなく存在する。それらは全てお釈迦さまご在世の人々のために、その人の求めに応じてお説きになられたみ教えである。但し法華経だけは、お釈迦さまご入滅二千年を経て、人々が佛教を信じなくなった時代、末法の時代の人々のために自らのご意志でお説きになられたみ教えである。法華経だけがご入滅後二千五百年に生きる私たち衆生のためにお説きになられた正言(金言とも、真実のこと)なのである」
 少々長くなりましたが今日の聖語を私の領解を加えてご紹介させていただきました。そして日蓮聖人は、「あなたがもし、心と体の真の安らぎを得たいと願われるならば、まずこのことを『信じきり』なさい。」と私たちによびかけておられるのであります。
 毎度のくり返しになりますが、七百年前、お弟子信者にお与えになられた「開目抄」も又、時間空間を越えて現在に生きる私たちへのよびかけでもあるのです。


合掌

日彰