菅野貫首写真

うつりやすきは人の心也
善悪にそめられ候

うつりやすきは人の心也。善悪にそめられ候云々。法華経にそめられ奉れば必ず佛になる。経云、諸法実相云々。若人不信乃至入阿鼻獄云々。いかにも御信心をば雪、漆のごとく御もち有るべく候
(西山殿御返事)

 今月ご紹介申し上げますお手紙のお相手、西山殿というお方は今の静岡県富士宮市、西山郷の地頭であったので西山殿とよびならわされておりましたが、本名は太内氏で鎌倉幕府に仕えておられ、聖人の篤信者になられた方であります。このお手紙は「金子五貫文日蓮聖人にご供養なされた事」に対するお礼にあわせてのご教示であります。前文の部分も加えて私の領解文をご紹介されていただきます。

「金子五貫文拝受いたしました。雪は至って白い物であるから別の色に染めることは出来ない。漆は至って黒いものであるから白くすることは出来ない。それとは違って人の心ほど移り易い(染まりやすい)ものはない。善悪に染められて善くもなれば悪くもなるのである云々。さて私たちの信じ、行っている法華経の正しい教え、お題目の実践に染められるならば必ず佛となる。このことを法華経方便品では〝この世の諸々の姿(相)そのものが佛の姿であり、我々の行いも又佛の姿、み佛の手の中に在るものである。〟譬喩品には〝法華経を信じないで謗る者、法華経を信じ持つ者を見て軽ろしめ、憎む者は地獄に堕ちる〟と説かれていることを忘れてはならない。どうか法華経の信仰心をば白い雪、黒い漆の心で、他の色に染まらぬよう信心堅固であられることを祈っている。」

 あらためて「うつりやすきは人の心なり」のご教示に胸をうたれます。そして法華経的生き方をするのに現代はすさまじい〝悪〟の時代なのだと思います。と申しますのも現代社会は過去に例のない善悪に染まりやすい時代であると思うからであります。昨今は情報社会と言われておりますようにありとあらゆる情報が私たちの廻りを飛び思っております。ひと昔前までは情報と言うと新聞、ラジオ、テレビでしたが今はそれに加えてケイタイ、スマホ、パソコン、インターネット、ユーチューブ等々情報が氾濫しており、それぞれが強い色を持っております。しかも匿名で出来るため何んでもありです。言いたい放題、書きたい放題。中には注目を集めて他の人に見てもらうとその数によってお金になると言う、とんでもないものまで出てきました。まさに「情報無法化社会」であります。よほどしっかり見すえないと流されてしまいます。「何が正しいのか」「何が真実なのか」この思考が大切であります、気をつけなければいけないのは「おれおれ詐欺」だけではないのです。日蓮聖人のご教示〝善悪に染められ〟るということは所詮自分の欲を中心にして物事を判断しようとすると道を誤りますヨ。思考の根本にはお題目のこころをおきなさいと言う重大な警告を発しておられるのであります。
 「情報無法化社会」に生きる私たち、善悪に染められぬよう欲の皮が突っぱらぬよう用心いたしたいものであります。


合掌

日彰