亡き母への供養

 私事ですが、先般 母が九十歳で他界しました。
 師父が遷化せられ二十五年の歳月が過ぎ、その間の母は寂しさの中にも寺庭婦人の法務や労苦から離れ、趣味や旅行を楽しみながら日々を過ごし、母なりの人生を謳歌していたと思います、たぶん……。
 しかし生前の母に対し、喜ばす親孝行は数えるほどしか無いことに気づきました。言い換えれば常に親の恩に感謝し優しく接してきたとは言い切れません。それに気づいた今、母の遺影と位牌が仏壇に飾られているのです。
 今は無き師父への報恩感謝の念は、師父の後継住職として自坊の丹精に尽力することで報いる事につながると考え、檀信徒教化や境内整備などを非才ながらも努力しています。
 先般、「父母恩重経」にふれる機会がありました。この経には「父に慈恩あり 母に悲恩あり」また「父母に十種の恩徳あり……父母の恩重きこと天の極まり無きが如し。是の如きの恩徳如何にして報ゆべき。」と記されています。
   そしてこの経には、一回でもこの経を声を出して読めば、育ててくれた恩に報いることになり、もし心を一つにしてこの経の教えをたもち、また人にもこの経の教えをたもたせるならば、親の恩に報いることができる、と説かれています。
 大切な事は、自身が素直な心で、常に感謝の心を忘れずに位牌に向き合うことです。そして合掌しながら供養の日々を送ることで、いつか父母の笑顔と向き合える日が訪れると願う次第です。

南無妙法蓮華経

合掌

執事長 木内隆志